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-気が向いたらセシウムを検査するブログ-

「セシウム」測定結果に登場することがある「ビスマス」ってどこから来たの?

「セシウム」測定結果に登場することがある「ビスマス」ってどこから来たの?

本日は東京大学の小豆川先生より。持ち込み測定の際などに、測定結果に出ることが有るビスマスというの天然の放射性物質についてご解説いただきました(^_-)-☆

 

 

聞き慣れない名前の放射性物質「ビスマス」

ビスマスという言葉を聞いたことがありますか?ビスマスは画像のように単体では非常に綺麗な結晶です(Wikipediaより引用)。今日は、放射性セシウムを測定しているときに、一緒に検出されることがあるビスマスについてご説明します。この画像のようにキラキラと綺麗なんでしょうかね?

放射性セシウムを測定しているときに見つけてしまう「ビスマス」には何種類か存在するのですが、中でも、214Biと書かれるビスマスが最も有名です。214Biは天然に存在する放射性の物質*1で、原発事故や核実験のように、人間が作りだした物質ではなく、人間が活動する遙か前から地球上のあらゆる場所に存在する物質です。

「放射性セシウムは聞いたことがあるけれど、ビスマスはどこから来たの?」という疑問、すなわち「214Biの由来」という話には、どうしても「系列」という話をしなければなりません。

 

ウラン系列という道順

214Biの頭に付いている214という数字は、その元素の体重(質量数)*2です。体重に関する不思議なルールの一つに「4で割った余り」ルールがあります。このルール、全ての物質に適用される訳ではありませんが、4で割ったときに「2」余る数字をもつ物質のグループのことをウラン系列(またはラジウム系列)と呼びます。214を4で割ると53あまり2ですから、214ビスマスはウラン系列の物質です。ウラン系列にある物質たちは、ウラン系列という「道順」に沿って、少しずつ、時間とともに自ら変わっていく(壊れていく)性質があります。スタートの物質が238ウランで、ゴールが206鉛です。214ビスマスはその壊れていく過程のだいたい真ん中くらいにある物質です。

 

物質が壊れるとは?

「時間とともに物質が自ら変わっていく」とサラッと書いてしまいましたが、これって凄いことですよね。放っておいた物質が原子レベルで違う物質になってしまうのです。たとえば、炭素を燃やしたら二酸化炭素になって空気中に消えてしまうのも、広い意味ではモノが変わっています。しかし、二酸化炭素になってしまっても、大元の「炭素」という言葉は残っています。電子をやりとりする化学反応であって、原子そのものは変わっていません。ここでいう「変わっていく、壊れていく」とは、その原子そのものが別の原子に変わっていく話なんです。あくまでイメージですが、銀が金に変わってしまうような話をしています。

話をウラン系列に戻しましょう。親玉、つまり、ウラン系列の一番上流が238ウランという物質です。そこから、頭に付いている238という数字をすこしずつ数を減らしながら(軽くなりながら)、最終的には206鉛まで、長い年月をかけて少しずつ変わっていきます。長い年月、と簡単に言いますが、何億年という時間がかかる話です。一斉に壊れ始めるものでもなく、徐々に徐々に壊れていきます。

イメージとしては、大きなため池から川を経て、次のため池へ、そしてまた川を経て、次のため池に、水の流れがあるようなものです。ため池が物質です。川の流れが壊れていく過程です。ため池には大きなものもあれば、小さなものもあります。川の流れが細いところもあれば、太いところもあります。もちろん、流れが太くて、水がたくさん流れれば、次のため池にものすごい速さで移動することになります。 (凄い速さで移動することを「半減期が短い」と言います。ため池の水が半分になる時間を半減期と言います)。親玉の238ウランのため池は海のような大きな大きなため池ですので、その水が簡単になくなったりしません。

そして、その川の流れを自然に止めることは不可能です。その川の途中に、214ビスマスや214鉛があります。214鉛が上流側で、214ビスマスが下流側です。この子たちは、細い川ではなく太い川で繋がっています。なので、ため池の容量はそれほどでもなく、上流から流れてくる量に依存します。だから、214鉛が存在すれば、ほぼ間違いなく214ビスマスが存在することになりますし、 極端な話、もし214鉛がなくなってしまえば、ため池が空になってしまうので、その下流の214ビスマスのため池もすぐに空になってしまいます。ただ、放射線の測定器(Ge半導体検出器)が系列の中にあるすべての物質を見つけられるわけではありません。その中でも214ビスマスは比較的見つけやすい特徴があります。

 

「お米の中に214ビスマスがいた?!」

お米の中の放射性セシウムを測定したところ、微かに214ビスマスが検出されました。ただ、このことは異常な事態ではなく、しばしば観測されうることです。これがどこから来ているのか、正確に定量する事は難しいのですが、考えられるルートは2種類あります。

ひとつがもともとお米にこれらの天然核種が含まれていた、といいう可能性があります。特に土壌にはたくさんの天然放射性物質が含まれていますので、それが移行することが考えられます。(仮に1 Bqの214ビスマスを検出した場合、その重さは約0.0000000000000000006 gに相当します)

もうひとつが、検出器周辺の空気の中に、222Rn(ラドン)が含まれていて、そこから系列の川の流れを下ってきた214鉛、214ビスマスが検出された、というルートが考えられます。 ラドンは気体ですので、どこにでも存在します。ラドンから鉛、ビスマスまでも太い川の流れですので、ラドンがいれば鉛やビスマスも検出されることが多いんです。

以上の理由のため、検出された214ビスマスがどこから来たのか、については、元々米にいた、あるいは検出器の周りの空気に含まれていたラドンが原因の2パターンがあり、測定結果からはどちらかに確定させることは難しい、ということです。ただ、どちらにせよ、100%人工由来である放射性セシウムと214ビスマスは一切関係がありません。なので、214ビスマスがお米(やその他の野菜など)から検出されても何ら不思議ではなく、特段珍しいことでもありません。 むしろ、食材からの(今回とは測定法は異なりますが)放射線を細かくカウントすることで、複数ある系列のうちどの系列の放射性物質が多いのか(あるいは少ないのか)という分析をする研究例もあるくらいです。

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参考情報

下記のサイトは、NaIシンチレーションカウンターという測定器を使った際に問題となる天然放射性物質について説明しています。(私どもが使っている検出器はGe半導体検出器で、文中ではNaIという別の測定機器を使用していますが、天然の放射性物質に対する基本的な考え方は同じです)http://kodomira.com/learn_radiation/entry-9284.html

*1 ここでは簡単のために文書全体で「物質」という単語を使用していますが、正しくは「元素」や「核種」という言葉を用いるべき箇所があります。
*2 体重には不思議なルールがたくさんあります。たとえば「魔法数」という言葉で調べてみてください。きっと面白いはず!